『道化師のwaltz』
(2018年製作)
さぁ、おいでなさい
連れ出してあげましょう
あなたを苦しめるその心の痛みも、
届かぬ想いもすべて忘れ去って
毎夜飽くことなく開かれる夢のカーニバルへ
連れ去ってあげましょう
あなたを苦しめるその悲しみも、
光届かぬ孤独な闇もすべて消し去って
時の狭間で開かれる
二度とは戻れぬ夢のカーニバルへ
さぁ、おいでなさい
連れ去ってあげましょう
道化師が妖しく微笑みながら、
深く甘い声でささやく
さぁ、ともに踊りましょう
つま先を赤く染めながら、
くるりくるりと踊り続ける踊り子のように
さぁ、いきましょう
時の狭間で開かれる
二度とは戻れぬ夢のカーニバルへ
『星降ル夜ノ物ガタリ』
(2018年製作)
耳をすませば
星たちの小さなささやきもきこえそうな
静かな夜更け
今夜は百年に一度の特別な夜
星たちが弧を描いて
次々に濃紺の空を流れ落ちてゆく
今夜は百年に一度の特別な夜
流れ落ちる星たちが
ひとつだけ願いを叶えてくれる
星たちのなかでも
いっとう輝く特別な星をみつけられたら
願い事はきっと叶う
小さな秘密の願い事
誰にも秘密の願い事
『氷の女王』
(2018年製作)
仄暗い深い森を抜けて
一羽の冬鳥がたどり着いたのは、
何もかもが冷たい氷に覆われた氷の国。
墨色の空を割るようにそびえたつ大きな城が、冬鳥の羽ばたきをとめる。
その城には心躍らせるきらびやかな調度品も、
鮮やかに咲き誇る色とりどりの花もなく、
だれの足音も生き物たちの息づかいもなく。
色をなくした墨色の世界の中で、静寂だけが横たわる。
玉座にいるのは
この凍えきった氷の世界をつかさどる、女王ただひとり。
色のない冷たい玉座にすわり、
従者も民も消えうせた王宮にただひとり。
ガラス玉のような青い眼はどこまでも美しく、氷のような静寂をたたえ、
でもその眼には何もうつさない。
ここにあるのは、
時の音も命の色も失くした空っぽの国と、
氷の女王ただひとり。
ここにいるのは、
迷い込んだ一羽の美しい冬鳥と、
孤独な女王ただひとり。
『Lilasの記憶』
(2018年製作)
むせかえるような花の匂いに、
よみがえるのは遠い日の記憶。
ふわりと広がるスカートの上で色とりどりの花冠を編みながら、
小さな秘密を打ち明ける。
ひそひそ……。クスクス
ひそひそ……。クスクス
小さな鈴のような声で笑いながら、秘密を分け合う。
あれは遠い日のわたしたち。
遠い遠い日の、まだ痛みを知らない頃のわたしたち。
あの子はもう、わたしの傍らから消えてしまった。
よく似た相貌をして、
お揃いのスカートをふわりと広げて、
同じ秘密を分け合ったあの子。
わたしの分身。
今は遠く、わたしの中に。
記憶だけが、わたしの中に。